Surprise - Reaction
- music-rpg
- 2016年6月8日
- 読了時間: 2分
〜旅の記録〜 記録者:格闘家
勇者のときも黒魔導士のときも、
祝いの瞬間は、サプライズだった。
二人を祝う側であった吟遊打人は、
それを成功させ、その日の主役から
良いリアクションを引き出さんとして
働いたものだった。
それが祝い事であるかどうかに関わらず、
彼はもっぱら「人に何かを投げかける側」
に立っていたい、という性質の持ち主である。
自らの誕生日もすぐ間近に迫っていることを
喜々として方々に吹聴していた彼であったが、
一方で、祝われる側に求められるものの重さ、
首尾良く周囲の期待に応えられなかった時の
無念さもまた、彼は知っていた。
それには、めっぽう弱いのである。
**************
5月、某日。
メンバー全員が一同に会する、サプライズには
絶好のタイミングのリハ日。
調子に乗って誕生日をアピールしていたものの、
今や、自らに求められるリアクションの難しさに
戦々恐々とする吟遊打人であった。
そんな折、交通機関の乱れ等を理由に、
集合を30分遅らせたい、という知らせが入る。
昨夜から、程なく訪れるであろうサプライズの
瞬間を入念にシュミレーションしていた彼は、
暗雲立ち込めるその脳内でひとつの答えを
導き出した。
「もう駅着いたから、どこかで暇潰してるね」
現時点での行動範囲を、それとなく周囲に
知らせておくという、サプライズを慮った言葉。
いや、それは寧ろ「うまく騙してくれ」と言う、
悲痛なまでの彼の、言わば魂の咆哮であったに
違いないのである。
**************
格闘家は、そんな吟遊打人の顔を拝むため、
「近くの公園でジャンプ力勝負しよう」という
取って付けたようなわざとらしい理由によって
彼を誘い出した。
「サプライズ準備のための時間稼ぎ」
そんな風に彼に怪しまれないために。
そんな疑念を払拭するために。
無論、そんな気は微塵も無い。
あるのはただ、このセンシティブな状況で彼が
どんな顔をしているのか見てみたい、という
悪魔的な気持ちのみである。
≪そう、格闘家は知っていた。
塒で待つ勇者、盗賊、黒魔導士が、
どんな面持ちで彼を待っているかを≫
≪ホールケーキのプレートには、
どんな言葉が躍っているかを≫
そして、格闘家は見た。
公園のベンチに佇み、
日の光を煩わし気に手で遮りながら、
こちらに気付いて手を振る彼のしかめっ面に、
できる限り普段通りに振る舞わんとする、
彼なりの、精一杯の、気遣いのようなものを。
吟遊打人、一世一代の、大歌舞伎であった。

吟遊打人よ。
Welcome to 30's.
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