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Surprise - Reaction

〜旅の記録〜   記録者:格闘家          

勇者のときも黒魔導士のときも、

祝いの瞬間は、サプライズだった。

二人を祝う側であった吟遊打人は、

それを成功させ、その日の主役から

良いリアクションを引き出さんとして

働いたものだった。

それが祝い事であるかどうかに関わらず、

彼はもっぱら「人に何かを投げかける側」

に立っていたい、という性質の持ち主である。      

自らの誕生日もすぐ間近に迫っていることを

喜々として方々に吹聴していた彼であったが、

一方で、祝われる側に求められるものの重さ、

首尾良く周囲の期待に応えられなかった時の

無念さもまた、彼は知っていた。

それには、めっぽう弱いのである。

**************

5月、某日。

メンバー全員が一同に会する、サプライズには

絶好のタイミングのリハ日。

調子に乗って誕生日をアピールしていたものの、

今や、自らに求められるリアクションの難しさに

戦々恐々とする吟遊打人であった。

そんな折、交通機関の乱れ等を理由に、

集合を30分遅らせたい、という知らせが入る。

昨夜から、程なく訪れるであろうサプライズの

瞬間を入念にシュミレーションしていた彼は、

暗雲立ち込めるその脳内でひとつの答えを

導き出した。

「もう駅着いたから、どこかで暇潰してるね」

現時点での行動範囲を、それとなく周囲に

知らせておくという、サプライズを慮った言葉。

いや、それは寧ろ「うまく騙してくれ」と言う、

悲痛なまでの彼の、言わば魂の咆哮であったに

違いないのである。

**************

格闘家は、そんな吟遊打人の顔を拝むため、

「近くの公園でジャンプ力勝負しよう」という

取って付けたようなわざとらしい理由によって

彼を誘い出した。

「サプライズ準備のための時間稼ぎ」

そんな風に彼に怪しまれないために。

そんな疑念を払拭するために。

無論、そんな気は微塵も無い。

あるのはただ、このセンシティブな状況で彼が

どんな顔をしているのか見てみたい、という

悪魔的な気持ちのみである。

≪そう、格闘家は知っていた。

 塒で待つ勇者、盗賊、黒魔導士が、

 どんな面持ちで彼を待っているかを≫

≪ホールケーキのプレートには、

 どんな言葉が躍っているかを≫

そして、格闘家は見た。

公園のベンチに佇み、

日の光を煩わし気に手で遮りながら、

こちらに気付いて手を振る彼のしかめっ面に、

できる限り普段通りに振る舞わんとする、

彼なりの、精一杯の、気遣いのようなものを。

吟遊打人、一世一代の、大歌舞伎であった。        

                                            吟遊打人よ。

Welcome to 30's.

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